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【ひなたの街のトップランナー Vol.5】甲斐優太さん、「普通」って何でしょう?―ADHDとして生きる僕が書いた“指南書”

宮崎市在住の甲斐優太(かい・ゆうた)さん(20)が、自身のADHDとしての経験や独自の死生観、そして「普通」という概念への問いをつづった著書『僕は本気で砂場を泳いだ。:「普通」が無理ゲーだったので、抜け道を探した夜』を出版しました。

2026年4月に宮崎国際大学への入学を控える甲斐さんに、執筆のきっかけや本に込めた思い、そして彼が思い描く「自由」のかたちについて話を聞きました。

「普通の人」として見られる中で抱えてきた、見えにくいしんどさ

「小学校の頃、漢字50問テストで赤点を取ると昼休みが潰れるんです。僕はそれが何カ月も続くような子どもでした」

そう振り返る甲斐さんは、幼い頃からADHDの特性によって、周囲と同じペースで物事をこなすことに大きな苦労を感じてきたといいます。転機になったのは、小学5年生のときの精神科通院。自分の特性を知った一方で、こんな思いも強くなっていったそうです。

「世の中には、自分と同じように苦しんでいるのに『普通の人』として扱われて、誰にも気づかれないまましんどさを抱えている人がたくさんいるはずだ、と思ったんです」

本を出そうと思ったのも、ただ出版したかったからではありません。

「本を出すこと自体が目的ではなくて、自分のメッセージを届けるための手段でした。最初はYouTubeも考えました。でも、実績のない言葉ってなかなか届かない。出版社に断られても諦めずにAmazon KDPで形にしたのは、困っている本人やその親、そして教育現場の先生たちに、この現実を知ってほしかったからです。僕と同じ経験をした人が、少しでも孤独を感じずに済めばと思いました」

ただ、甲斐さんは世の中で語られる「普通」という概念に違和感を抱きつつも、それを真っ向から否定し、取り払おうと叫んでいるわけではありません。

「僕自身も『普通』という言葉を完璧に使いこなせているわけではありません。ただ、その言葉に囚われて、周りに否定された経験から自分を追い込んでしまう人がいるなら、『一緒に、普通であれと思わないように頑張ろうよ』と伝えたいんです。強い主張というよりは、自分も含めて、みんなで少しずつ楽になれたらいいなという感覚ですね」

自分なりの「普通」を考えること。人と違うなら、その理由を自分なりに探してみること。甲斐さんはこの本を書く過程で、自身の過去を振り返り、言語化することで「自分はこういう人間だったんだ」という気づきを一つずつ積み上げてきました。

「台本を投げ捨てた」高校時代がくれた自由

甲斐さんが「自分は普通じゃなくていい」と思えるようになった背景には、母校・宮崎東高校での経験がありました。

象徴的なのが、生徒会選挙での出来事です。用意された演説の台本を手にしながら、甲斐さんはこう言ったそうです。

「自分の気持ちは本物なので、読まなくてもできます」

そして、その場で台本を投げ捨てたのだとか。かなり大胆な行動ですが、そんな姿も面白がって受け止め、一人の人間として対等に向き合ってくれる校風に救われたと話します。

「東高校には『総合的な探究の時間』という、自分で課題を見つけて答えを探していく授業がありました。そこで出会ったのが、編集者としても僕を支えてくれた西山正三先生です。僕がどんなに突飛な夢を語っても、先生は頭ごなしに否定せず、客観的な感想を返してくれました。そのおかげで、自分の考えを整理できたんです」

迷ったときにそっと背中を押してくれる存在がいたからこそ、この本も単なる自伝では終わらなかったのだといいます。

フィリピンで見えた、日本では気づけなかったこと

2024年3月、甲斐さんは「日本と違うところを探す」というテーマを持って、2週間のフィリピン旅行に出かけました。刺激やスリルを求め、あえて危険そうな場所にも足を運んだそうです。

滞在中には、深夜のバスでスマホを盗まれそうになる出来事もありました。隣の乗客が隙を見てポケットに手を伸ばしてきたのです。甲斐さんはそれに気づきながらも、4時間にわたって相手と無言の駆け引きを続けたといいます。

「そのとき思ったんです。この人も、もし他にまともな仕事があれば、こんなことはしていないかもしれないって。一概に『悪い人』って言い切れない環境がある。日本にいたら見えない景色でした」

さらに印象に残っているのが、コンビニの裏で人に追い回されても、また同じ場所に戻ってくるネズミの姿だったそうです。

「その姿を見て、周りの否定ってただのノイズかもしれない、自分らしくいていいんだって思えたんです」

「砂場」の見え方は、親と子でこんなに違う

本のタイトルは、保育園の頃のあるエピソードからつけられました。周りから不思議そうに見られながらも、「楽しそう」と思って本気で砂場を泳いでいた――そんな体験です。

甲斐さんは、「砂場の見え方は、親と子で決定的に違う」と話します。

「親は良かれと思って砂場という環境を用意して、そこにあるレールに乗せようとする。でも、その砂場が合わない子もいるんです。僕は本気で砂場を泳ぎたいと思っていたけど、周りからは『汚れるからやめなさい』と言われる。子どもが楽しいと思ってやっていることを、大人の価値観で止めてしまう。そのズレが、多くの若者の生きづらさにつながっているんじゃないかと思います」

本書の第4章には、あえて「指南書」としての要素も入れました。

「一般の人のエッセイって、それだけだとなかなか興味を持ってもらえない。でも、読んだあとに『次の一歩』を踏み出すヒントがあれば、本の意味が生まれると思ったんです」

実際に、学校で優等生としてプレッシャーを抱えていた生徒から、「救われた」というメッセージも届いているそうです。

これからは、誰かの夢を笑わずに受け止められる大人へ

2026年1月1日、元日に20歳を迎えた甲斐さん。春からは宮崎国際大学で教育を学びます。その先で目指しているのは、単なる「先生」という枠に収まらない存在です。

「海外に行きたい、アイドルになりたい。そんな一見ばかばかしく見える夢でも、笑わずに本気で聞いてあげられる場所をつくりたいんです。僕が欲しかった場所を、今度は僕がつくる番だと思っています」

現在は、SNSで大人が若者の相談に乗る窓口づくりや、実際の砂場を舞台にしたトークイベントなども構想中とのこと。宮崎から、甲斐さんはこれからも「普通」という枠を軽やかに飛び越えながら、自分らしい未来を描いていきます。

 

【書籍情報】 『僕は本気で砂場を泳いだ。:『普通』が無理ゲーだったので、抜け道を探した夜』 著者:甲斐 優太 編集:西山 正三 Amazonにて好評発売中。ADHDの葛藤からフィリピンでの気づき、自分らしく生きるためのヒントまで、瑞々しい感性で綴られている。

【プロフィール】 甲斐 優太(かい ゆうた) 2006年1月1日生まれ、宮崎市出身。宮崎東高校(定時制)を卒業。2026年4月に宮崎国際大学に入学。

 

取材・撮影=田代くるみ(Qurumu)

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