2019年、けやき坂46から日向坂46へと改名したアイドルグループと、「日本のひなた宮崎県」。「ひなた」のフレーズでつながる両者の関係は、テレビ番組「日向坂で会いましょう」のロケをきっかけにスタートした。そして2024年、日向坂46初の野外フェス「ひなたフェス2024」がひなた宮崎県総合運動公園で開催され、大成功に。フェスの1か月前に発生した日向灘の地震や令和6年台風第10号などの被害もあり、県内経済が落ち込んでいた中で地域経済の再生を図っていく大きな後押しとなった。
開催から半年が経ち、フェスがもたらした経済効果や地域社会への影響が明らかになってきた今、成功を支えた知られざる舞台裏に迫ることに。連載「backstage of ひなたフェス」では、陰で尽力した関係者へのインタビューを通じて、各取り組みのカギを探っていく。今回は宮崎県・観光推進課の長倉有輝さんと、スポーツ振興課の橋口真夕さんにインタビューを実施した。
<backstage of ひなたフェス>わたしが考える「成功のタネ」
宮崎県・観光推進課の長倉有輝さん、スポーツ振興課の橋口真夕さん「おひさま歓迎の気持ち」
■26市町村+県とメンバー数27人という親和性を見つけて
地方自治体がアイドルのフェスに深く関わるというのはまさに“異例”。「他の自治体でもこうした事例はなく、何から始めたら良いか分からなかったことを覚えています。しかし、宮崎の良さを知っていただくこんな好機はないと思い、どうしたら来県される「おひさま(日向坂46ファンの総称)」の皆さまを歓迎できるか、まずは自分たちがおひさまになって考えてみようと思いました。」と長倉さんは振り返る。
観光PRを担当する長倉さんは、全国各地から訪れる多くのおひさまに宮崎の魅力を知ってもらう絶好の機会と捉え、「せっかくなら、宮崎県全域を巻き込んでひなたフェスを盛り上げ、そしてメンバーの方々全員にスポットライトを当てたプロモーションがしたいと思いました」(長倉さん)。
そこで注目したのが、(フェス開催当時)日向坂46のメンバーが「27人」であるということ。宮崎県内は26市町村で構成されていることから、これに宮崎県庁を加え、メンバー27人とタイアップしたポスターとのぼりを制作することに。「各市町村の『推し』のスポットやモノとメンバーを組み合わせることで、おひさまに県内各地を周遊してもらうきっかけを作り、各地の魅力を感じてもらおうと企画しました」と長倉さんは話す。
■前例のないスタジアムのフェス利用
県庁が担ったのは観光PR面だけではない。さまざまな取り組みの中で、特に大きな課題だったのが、ライブ会場となるひなたサンマリンスタジアム宮崎の「芝生問題」だった。「野球の聖地として知られるこのスタジアムでは、大規模な音楽イベントを開催した前例がありませんでした。実施した場合に大切な芝生へのダメージは避けられず、その後の野球の試合への影響も懸念されていたのです」と会場管理を担当した橋口さん。
この問題を解決するため、県庁は阪神甲子園球場の管理を行う阪神園芸に相談。綿密な調査の結果、芝生の復旧が可能であるという見通しが立ち、開催に向けて大きく前進した。
課題はそれ以外にも、陸上競技場や武道館など、通常スポーツ競技で使用される施設をフェス仕様で使用するための調整、関係各所との協力、そして安全対策への配慮など山積していたが「それでも、指定管理者や主催者側と粘り強く協議を重ね、一つひとつ解決策を見出していきました」と橋口さんは振り返る。
■ファン、事業者、自治体の「三位一体」が成功の鍵
当日までの機運情勢に、前出のポスターを県内各地で掲出したり、フェス会場で放映する歓迎ムービーとして各市町村から素材を集めたりと、奔走していた県庁メンバー。会場の問題も一つずつだがクリアしていく中で、橋口さんは「当日を無事迎えられたのが、今でも不思議なくらいです。本当にたくさんの人の協力があってのことでした」と語る。
そして迎えたフェス当日。何も問題なく終えることができるか、現場では緊張感のある時間が続いていたが、大盛況だったことは周知の事実だ。会場での様子はまた別の記事に委ねるとして、関係者の予想を上回ったのは、おひさまたちのマナーの良さだった。会場内は多くのおひさまで賑わっていたが、大きな混乱はなく、ゴミも驚くほどきれいに分別され、散乱していた様子も皆無。さらに、フェス翌日に会場周辺のゴミ拾い活動に参加するおひさまたちの姿も見られ、驚きを隠せずにいたという。
「『おひさま』の皆さんは、本当に礼儀正しく、素敵な方々だったことが忘れられません。大変な暑さの中でフェスの成功に貢献する姿に感銘を受けました」と長倉さん。「また、フェスの成功は、県庁だけの努力によるものではありません。地元企業もこのイベントを盛り上げようと、様々なコラボレーション企画を展開しており、行政だけでなく、事業者やファンも含めた『三位一体』の取り組みが成功の鍵だったと思います」と語る。
加えて、今回のフェス開催は、サンマリンスタジアムの新たな可能性を示すものでもあった。これまでスポーツ競技が中心だったこのスタジアムが、大規模な音楽イベントの会場としても活用できると分かったことは、県にとっても大きな発見となった。「すでに今後も音楽イベントを開催してほしいという声が上がっており、スタジアム利活用の未来は大きく広がっています」と橋口さんも期待する。
宮崎県と日向坂46の関係は、フェス後も継続中であることはすでに知られているだろう。日向坂46は宮崎県から「みやざき大使」に委嘱され、宮崎の魅力を全国に発信する役割を担う。「ひなたフェス2024」は、単なる音楽イベントにとどまらず、地域活性化の起爆剤となったのだ。