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【backstage of ひなたフェス/第四話】“宮崎ビギナー”なおひさまを運んだ、宮崎交通のフェス輸送作戦

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2019年、けやき坂46から日向坂46へと改名したアイドルグループと、「日本のひなた宮崎県」。「ひなた」のフレーズでつながる両者の関係は、テレビ番組「日向坂で会いましょう」のロケをきっかけにスタートした。そして2024年、日向坂46初の野外フェス「ひなたフェス2024」がひなた宮崎県総合運動公園で開催され、大成功に。フェスの1か月前に発生した日向灘の地震や令和6年台風第10号などの被害もあり、県内経済が落ち込んでいた中で地域経済の再生を図っていく大きな後押しとなった。

 

開催から半年が経ち、フェスがもたらした経済効果や地域社会への影響が明らかになってきた今、成功を支えた知られざる舞台裏に迫ることに。連載「backstage of ひなたフェス」では、陰で尽力した関係者へのインタビューを通じて、各取り組みのカギを探っていく。今回は、2日間にわたり大規模なバス輸送を担った、宮崎交通の神戸浩さんに話を聞いた。

 

<backstage of ひなたフェス>わたしが考える「成功のタネ」

 

■準備したバス台数はこれまでの倍、前例のない規模となった輸送

1926年の創業以来、地域密着の公共交通機関として、宮崎の人々の暮らしに寄り添ってきた宮崎交通。路線バスの運行を通じて、通勤・通学といった日常の足を支える一方で、青島太平洋マラソンやプロ野球キャンプなど、大規模なイベント時の輸送にも欠かせない存在だ。長年、宮崎の移動を支えてきた公共交通の担い手として、幾度となくその力を発揮してきた同社だが、今回の「ひなたフェス2024」では過去最大級の動員を想定したバス輸送に挑むこととなった。

 

2日間での目標輸送人数は約4,500人。これは九州旅客鉄道(JR九州)が想定していた輸送人数同等の規模であり、同社にとっても大きな挑戦だった。臨時バス約30台、会場と駐車場を繋ぐシャトルバス36台を投入し、これまでのイベント時の対応の倍以上となった。

 

(写真提供=宮崎交通)

 

「WBCやプロ野球キャンプなどのこれまで宮崎で行われたイベントでは、自家用車で来られる方が多く、会場周辺の駐車場からのシャトルバス運行が主な対応でした。しかし、今回は関東・関西からの来場者が8~9割を占め、空港や主要な駅から公共交通機関を利用する人がほとんど。これまでの運行体制ではとても対応しきれないと感じていました」と神戸さんは振り返る。

 

こうした想定に基づき、宮崎交通・JR九州・JTBの三社で協力し、2024年1月頃から輸送計画を開始。JTBとの連携やチケットの販売状況などから、関東・関西方面からのおおよその来場者数を事前に予測し、空港・宮崎駅からの移動ニーズを把握。それに基づき、必要となるバス台数や運行ダイヤを緻密に設計していった。さらに、関東圏で開催された日向坂46のライブ実績からも、来場者の多くが公共交通機関を利用する傾向があることが確認されており、その点も判断材料となったという。

 

■課題となったバス乗務員の確保、暑さ対策にも注力

計画の実行にあたり、最も大きなハードルとなったのが乗務員の確保だった。神戸さんは「イベント当日は通常の路線運行もあったため、臨時・シャトルバス用に追加で乗務員を配置するのは容易ではありませんでした。旅行部門やバス部門を含め、社内全体で調整を重ね、最終的に他社バス会社も含め60~70名の乗務員体制を整えることができました」と話す。

 

加えて、真夏の屋外イベントという環境を考慮し、熱中症などの健康面への対策も入念に行った。会場周辺には冷房の効いた待機用バスを複数台配置し、体調不良者が一時的に休めるような体制も整備。暑さに配慮した柔軟な運用体制が敷かれていた。

 

「屋外イベントかつ、気温の高いシーズンでもあったため、通常の運行では想定しないような“もしも”にも対応できるよう、運営側と丁寧に準備を重ねました」(神戸さん)

 

迎えた当日、事前に懸念された渋滞もほとんど発生せず、予想以上にスムーズに進んだという。「最終便が日付をまたぐことも覚悟していましたが、すべてのバス運行が23時までに完了しました。JR九州さんとの連携が非常にうまくいった結果だと思います」(神戸さん)

 

また、笑顔で会場を後にする日向坂46のファン「おひさま」の姿を見て、安堵と達成感を覚えたという。「全体的に皆さんマナーが良く、『ありがとうございました』と言って降りてくださる方も多く嬉しかったですね」と笑顔を見せた神戸さん。

 

■これまでの「積み重ね」が成功に、フェス専用の“最適解”を構築

今回の取り組みを振り返り、「お客様の満足度が最終的な評価になりますが、交通面だけを見れば、非常にスムーズな運営ができたと感じています」と語った神戸さん。成功の要因には、これまでの「積み重ね」を挙げた。

 

(写真提供=宮崎交通)

 

中でも青島太平洋マラソンでは、宮崎大学の駐車場を起点に会場へとスムーズに向かうためのシャトルバスルート、通称「青太ルート」を確立している。今回はそのルート設計をさらにアップデートし、ひなたフェス専用の「ひなたルート」として最適化。「青太ルート」で培ったノウハウを活かしながら、より多くの来場者を快適に送り届けることを目指した。

 

数多くのイベントへ輸送した経験と、丁寧に設計された今回の取り組みは、地域イベントと公共交通がより密接に連携する未来への一歩となり、宮崎の“もてなし力”をさらに高めていくだろう。

 

 

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