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「和牛のオリンピック」で日本一に挑む! 畜産のまち・小林の4人のチャレンジャーたち

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日本各地の優秀な和牛が一堂に会し、その改良の成果や飼育管理技術を競う「全国和牛能力共進会」(以下、全共)。5年に1度開催される国内の畜産農家にとって最大のイベントのため「和牛のオリンピック」とも呼ばれている。

今年10月に行われる第12回鹿児島大会に向けて、8月に宮崎県代表牛決定検査会が実施され、県代表牛の23頭が選出された。

小林市は、市長自ら「日本一宮崎牛の本家本元は小林の牛」と語ることもあるほど畜産が盛んな地域で、前回、前々回と内閣総理大臣賞(日本一)を獲得し、史上初の3大会連続の同賞受賞に貢献している。今回の宮崎県代表牛を決める予選では、枝肉を評価する「肉牛の部」と牛の姿を評価する「種牛の部」から各2名ずつが選出された。

和牛の祭典に宮崎県代表として挑む同市の畜産農家4名に、畜産のまち・小林の強みや大会への意気込みを伺った。

■チーム西諸の力で再び日本一へ

「肥育農家の仕事は、消費者の皆さんが食べた時に『あ! 美味しい』と思える牛を育てること。肉質の良い大きな牛に育て上げるためには、なによりストレスのない環境が重要です」

こう話すのは小林市で「有限会社馬場牧場」を営む馬場幸成(ばば・こうせい)さん。今回の全共では枝肉を評価する「肉牛の部」で宮崎県代表に選ばれた一人だ。

自社牧場で480頭ほどの牛を育てる小林市を代表する肥育農家の馬場さんは、前回・宮城大会の8区で内閣総理大臣賞を獲得している。畜産の世界に入って40年、肥育農家としても35年になる馬場さんにとっても、全共は特別な大会だという。

「鳥取大会から挑戦を始めて、今回の鹿児島で4大会目のチャレンジになります。全共候補の大切な牛を預かり、良い状態になるように育てていくのは大変な作業です。しかし、肥育農家は素牛の質で決まるので、前回良い結果を得られたのは西諸の生産農家の力だと思っています。それに加えて、西諸の畜産技術員や役所の方々の技術力やフォロー体制は日本一ではないでしょうか。私たちが困った時にすぐに駆けつけて、適切なアドバイスをしてくれる。前回、日本一を獲得できたのも支えてくれた皆さんのおかげです」

畜産農家を支える“チーム西諸“に「何よりも誇りを感じているし、恩返しをしたい」と話す馬場さんの言葉に、畜産王国・小林の底力を感じた。

■娘と二人三脚で挑む全共への挑戦

「この仕事の面白みは、目に見える形でも見えない形でも、はっきりと成果が得られるところにあります。それは牛という生き物を育てる面でも、共進会に出して力を試せるという面でも、収入の面でも言えることです」

そう畜産農家の魅力を話すのは「肉牛の部」のもう一人の代表者の竹之内利弘(たけのうち・としひろ)さん。繁殖と養蚕を家業としていた両親の元で育ち、利弘さんの代から肥育農家経営をはじめて、現在は300頭を育てる畜産農家歴50年の大ベテランだ。

現在は、2005年から就農している娘の竹之内美佐子さんが主に牛の管理は担当している。

「1日牛の変化を観察しながら、飼育する牛たちの体調管理を細かく気にかけています。やっぱり日によって牛の体調は微妙に変わってくるので、餌を食べている時には特に気をつけてその様子を見守っていますね。小さい頃から365日毎日働く両親の様子を見ていたので、休みがないのも苦になりません」と話す美佐子さんは、父と共に日々牛に向き合ってきた。

「娘が一生懸命頑張っていたので出品した4頭の中から1頭でも選ばれてほっとしたのが、正直な感想です。大会まで残りあとわずか。ベストな状態で本戦に臨めるように大事に養っていきたいと思います」と利弘さんも全共への意気込みを述べる。

「50年やっていても一人前にはならないんですよ。まだまだ上がいますから」と語るいくつになっても飽くなき探究心を持つ“小林の畜産業界に長年貢献してきた功労者“は、娘と共に念願の日本一を目指す。

■悔しさを糧に、地域を牽引する

「人も牛も食べて寝るという基本の生活は一緒です。しかし、牛は体調が悪くても教えてくれない。だからこそ、観察力が一番重要だと思っています。子牛の繁殖も全共も完璧にうまくいったと思うことはなかなかありませんね」

そう話すのは、「種牛の部」2区の県代表に選ばれた森田正明(もりた・まさあき)さん。10年前に地元・小林に帰り、現在、繁殖農家として親子合わせて約300頭を飼育している。今大会で3大会目の出場となる正明さんは「全共は全国から集まる畜産農家と腕くらべをする農家の祭りみたいなもの。自分に実力をつける非常に絶好の機会」と話す。

前回宮城大会の7区の総合評価群の「種牛の部」では優等2席を獲得している正明さん。大会後に感じた反省や悔しさを糧にしながら日々の子牛づくりに活かしているという。

正明さんは小林の畜産の強みに、「各農家が負けないように何度でも挑戦してくる、切磋琢磨し合う環境面がある」と言う。今回の全共予選でも「次も全共に挑戦してみたいです。また一緒にやりましょう」と声を掛けてきた、西諸地区の将来を担う若手畜産農家たちの頼もしい姿を目の当たりにしている。

「毎回全共出場を辞めようかと悩むんですが、大会の時期が近づいてくるとソワソワしてしまうんですよね」と微笑む正明さん。「今回の宮崎県予選の感想は?」という私たちの質問に対しては「悔しさしかない」と即答。現状に満足せず、子牛の繁殖にどこまでも実直に向き合う姿勢が、これからも西諸地域の生産農家全体のレベルアップ、そしてまちの“畜産力”を引っ張っていくのだろう。

■父と同じ憧れの舞台へ

「父に連れて行ってもらった子牛の品評会で、父が良いと思った牛と自分が選んだ牛の違いを比べて遊んでいました」と子どもの頃の思い出を話すのは、正明さんと同じ「種牛の部」2区で全共初出場を果たした森田悠斗(もりた・ゆうと)さん。

腕に着けるスマートウォッチがなんとも若者らしい20歳の悠斗さんは、実は正明さんの甥にあたる。悠斗さんの父・森田直也さんは、多くの大会で優秀な実績を残してきた西諸地区を牽引する繁殖農家の一人。

そんな環境で育ち、常に牛に囲まれてきた悠斗さんは、職場で飼育する300頭の牛の顔を見分けられ、その個体識別番号の下4桁とその血統まですべて覚えているという驚きの才能の持ち主だ。

高校卒業後、実家の繁殖農家を継ぐことも考えたが、畜産に関する様々な経験を積むことが今後に役立つと現在の勤務先である「JAこばやし御池肥育センター」で就農。一日中、牧場の牛の世話に明け暮れながら、仕事終わりや休みには全共に出品する「やすこ」の世話や家の手伝いを行い、まさに毎日牛漬けの日々を送っている。

難聴というハンディキャップを背負う悠斗さんだが、しっかりと自分の言葉で全共への想いを語る姿は実に頼もしい。

「今回出場する2区は、前々回の大会で父が出品し、惜しくも優等2席という結果となり、悔しい思いをしました。憧れの全共。父のような立派な姿で挑みたいです」

今大会から新設された特別区の「高校及び農業大学校の部」では、同市の小林秀峰高校が県代表として出場権を得ている。これからの小林の畜産を今後何十年も支えていく若い新芽は確実に育ってきている。

■生産者・地域の関係者がみなで支える「畜産のまち・小林」

今回の4名の代表者にインタビューをする中で、その言葉の端々や牛を見守る眼差し、世話をする一挙手一投足に、畜産業への誇りや育てる牛たちへの深い愛情を感じる場面が何度もあった。

それと同時に印象深かったのが、取材に同行した小林市役所の畜産関係者と農家の間の深い信頼関係だった。

これまでの過去の全共でも、同地域の農協や市の畜産技術員などの関係者の献身的なバックアップが小林の生産者の好成績を大きく後押ししてきたという。

今回の取材中も繁殖と肥育に分かれた担当者が、それぞれの農家の飼育へのこだわりや出品する牛たちの現在の生育状況などを事細かに“自分ごと“として嬉しそうに話す姿に、官民一体となって地域全体で「畜産のまち・小林」を築き上げてきた理由の一端を垣間見た気がした。

「第12回全国和牛能力共進会」の決戦の地である鹿児島県は、前回大会で総合成績を競う団体賞で優勝を果たし、今回も最大のライバルと目されている。

「前回、肉牛の部で内閣総理大臣賞を獲得したことにより子牛生産者も県外からの購買者が増えるなど、その与える影響力の大きさを身を持って体感しました。だから下手な結果を出せないというプレッシャーはありますね。ライバル鹿児島に負けないような牛と共に、全共に臨みたいと思っています」(馬場さん)

宮崎県、そして畜産のまち・小林で畜産に関わる人たちの想いと誇りを乗せて「和牛のオリンピック」に挑む4人の勇姿から目が離せない。

 

取材・執筆=日高智明、構成=田代くるみ(Qurumu)、撮影=(株)田村組 

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